甲状腺がんのステージ別生存率と平均余命

“放射線被爆”という言葉がよく知られるようになったのは、2011年に起きた東日本大震災による福島第一原発事故の時ではないでしょうか。福島第一原発事故の責任問題などのニュースが主になる中、福島第一原発から漏れた放射線被爆により、甲状腺がんや白血病のリスクが上がるといったニュースも同時に取り上げられるようになりました。その結果、甲状腺がんの認知度は以前よりも高まりつつあるかと思います。

そういった経緯もあって、多くの方が甲状腺がん検診を受けるようになり、中には病院で陽性疑いや確定診断を受けた方もいらっしゃると思います。しかし、甲状腺がんの生存率や死亡率などはあまり知られておらず、多くの方が不安になっているかと思います。

そこで、この記事を通して、皆さんには甲状腺がんの平均余命など今後の生活に関わる数値を知っていただこうと思っています。ぜひ、この記事を読んでいただき、甲状腺がんについて正しい知識を得ていただければ幸いです。

甲状腺がんの種類と進行度について

がんと一口に言っても、その種類によって悪性度や治癒のしやすさは異なります。甲状腺がんでも同様で、甲状腺がんの種類によってその悪性度や治癒しやすさは異なってきます。

甲状腺がんには乳頭がん、濾胞がん、未分化がん、髄様がん、甲状腺悪性リンパ腫などの種類がありますので、本章ではそれらの悪性度や治癒のしやすさを説明しましょう。

悪性度の低い甲状腺がん

甲状腺がんのなかで悪性度が低いとされているのは乳頭がんと濾胞がんです。この2つのがんは分化型の甲状腺がんと呼ばれています。分化型甲状腺がんはがん化した細胞が成熟しているため、がん細胞の増える速度が遅く、予後が良いとされています。

悪性度の高い甲状腺がん

一方で、甲状腺がんのなかで悪性度が高いとされているのは髄様がん、未分化がん、甲状腺悪性リンパ腫です。特に悪性度が高いのは未分化がんで、がんの細胞が未成熟なため、増える速度が速く、病気の進行も速いとされています。

甲状腺がんのステージ別5年生存率

甲状腺がんはその大きさや浸潤度合、そしてリンパ節転移や遠隔転移の有無により病期と呼ばれるステージ分類が決められています。そして、その病期により5年生存率が異なります。

2007年から2009年に手術だけではなく、放射線治療、薬物療法、そのほかの何らかの治療を受けた患者さんを対象にした全国がんセンター協議会の生存率共同調査によると、甲状腺がんの5年生存率はステージⅠで100.0%、ステージⅡで98.6%、ステージⅢで99.0%、ステージⅣで73.2%、全体としては92.1%となっています。

この数字を見て生存率が低いと思われるか、高いと思われるかはわかりませんが、他のがんと比べればその5年生存率は非常に高いと思われます。特に、ステージⅠ~Ⅲまでに見つけられればその生存率はほぼ100%に近いという結果になっています。ですから、甲状腺がん検診を受けて早期に甲状腺がんを見つけることができれば予後は非常に良いということが言えます。

ステージⅣの平均余命とは

前章でも述べたように、甲状腺がんのステージⅣになると5年生存率は73.2%まで低下し、比較的予後が良いとされる甲状腺がんであっても、その生存率は下がってしまいます。

実際に、甲状腺未分化がんのステージⅣの平均余命は平均で4~6か月程度といわれています。仮に手術による治療ができたとしても平均余命は1~2年程度であるといわれています。

このように甲状腺がんはステージⅠ~Ⅲであれば比較的予後は良好ですが、遠隔転移を伴うようなステージⅣの状態になるとその平均余命はかなり短くなってしまいます。このことからも甲状腺がんの早期発見は非常に重要であることが分かります。

罹患数と死亡数の推移

日本の甲状腺がん罹患率は、年々男女とも増加傾向が見られます。特に、その増加傾向は女性でより顕著で、人口10万人あたり1975年では3人程度だった罹患率が2013年には13人超と増加しています。

この背景には甲状腺がんの認知度が高まったことや、甲状腺疾患の検査として医師による触診が広く行われていることなどが挙げられます。また、人間ドックや集団検診の場での頸部超音波検査の実施が近年増えています。さらに、最近の超音波診断装置の進歩により、甲状腺検査の診断能力は上昇しており、特に腫瘤の発見頻度が上昇しているとの報告もあります。

一方で、甲状腺がんの死亡数は1955年だと男性40名、女性116名であり、男性ではがんによる死亡者数41,223名の0.1%弱、女性ではがんよる死亡者数36,498名の0.3%強を占めていました。その後、甲状腺がんによる死亡者数は徐々に増加し、2012年には男性550名、女性1144名にのぼります。

しかし、甲状腺がんの死亡率は大きく変化しておらず、男女ともわずかに減少する傾向が見られている程度となっています。

甲状腺がんの末期症状とケアに関して

甲状腺がんは早期であれば自覚症状は乏しいとされていますが、甲状腺がん末期状態になると様々な症状がでてきます。本章では分化がんと未分化がんの末期症状について説明していきます。

分化がんの症状としては首に固いしこりができるのが特徴です。通常、しこり以外には自覚できる症状がないことがほとんどですが、がんが末期状態になると、食べ物を飲み込む際に痛みが生じたり(嚥下時痛)、声がかれたり(嗄声)、呼吸困難が生じたり、血の混じった痰(血痰)が出たりといった症状が見られるようになります。

一方、未分化がんは分化がんより進行が早く、悪性度が高いがんであることは前章で説明済みです。未分化がんでは、甲状腺の腫脹や痛み、発熱などの症状が出現しますが、がんが末期になるにつれて、分化がんと同様に飲み込みづらさや呼吸困難、血痰などが見られるようになります。

未分化がんは末期の状態になると気管や食道、反回神経への浸潤、リンパ節、骨、肺、肝臓、脳などの臓器への転移を起こします。転移を起こしたがんは、それぞれの臓器で重篤な末期症状を引き起すこともあります。よって甲状腺がんの未分化がんの末期には、体重が減ったり全身倦怠感などといった、全身症状が出現してくることがあります。

末期状態になると可能な治療は放射線治療や化学療法が中心になりますが、全身症状に対する対症療法も必要になってきます。疼痛や呼吸困難などの様々な症状に対して痛み止めのお薬を使うことはもちろん、気分が落ち込んだり、不安になったりすることもあるかもしれません。

そういったがん末期状態に対しては「緩和ケア」という治療介入が行われます。緩和ケアでは、がん末期の辛い痛みや様々な症状を軽減させるだけでなく、ご本人やご家族の精神的な苦痛に対しても個別に対応することができます。

緩和ケアによって本来の自分らしさを取り戻し、療養生活の質を維持・向上させることは、がん末期のケアとしては非常に重要であると言えるでしょう。

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経歴:

中学生の頃祖母を肺癌でなくし、自分の無力感から医師を志す。高校卒業後は地元の横浜市立大学に通いながら、様々なメディアを通じて記事を作成。2017年から地元の市民病院で研修医として働き、2019年から念願の医師として奮励する。