前立腺がんのステージ別生存率と平均余命

一昔前と比べると、前立腺がんになっている患者さんは数倍に増えてきています。2020年には、10万人が新たに罹ると予想されているほどです。検査を受けて「前立腺がんの疑いあり」となってしまった時には、治療してきちんと治るのか?ということが気になるのではないでしょうか。前立腺がんでは治療成績はどのくらいなのでしょうか。実は、前立腺がんは進行していたとしても生存率は高いです。

ここではそのような前立腺がんの疑いや診断された場合に出てくる疑問や不安を解決するための情報として、前立腺がんの生存率についてデータや最近の研究の結果を元に紹介します。合わせて、末期における体や心のつらさに対応する緩和ケアの重要性についても説明します。

前立腺がんの種類と進行度について

TMN分類と病期(ステージ)

前立腺がんと診断され、治療方針を決定するときには、がんの状態や進行度合いを明らかにしておく必要があります。がんの状態の分け方を大まかに言うと、次の3つの観点によって分類されます。

  1. がんが前立腺でどのくらい広がっているか?(Tカテゴリー)
  2. がんがリンパ節に転移しているか?(Nカテゴリー)
  3. がんが他の臓器に転移しているか?(Mカテゴリー)

このような観点を用いた分類方法をTNM分類といいます。

病期(ステージ)はTNM分類によって評価されます。リンパ節や遠隔への転移がなく前立腺内部に留まっている場合には、ステージIまたはIIと評価されます。前立腺の外側にもがんがあると、ステージIIIと評価され、近くの臓器・リンパ節・遠隔への転移まであるような場合にはステージIVと評価されます。また、前立腺がんでは、これに加えてPSA値やグリーソン・スコアというがん組織の悪性度の評価を含めてリスクの評価をします。

このようにステージなどを用いてがんのリスク評価を行っているのはなぜでしょうか。それは、がんの今の状況や今後どうなるのかを知るための目安になるからです。例えば、治療はどのくらい効果があるのか、どんな副作用が予測されるのか、手術を受けるべきかどうか、治療法の選択肢が複数あるときにはどの治療法がより良いのかなど、知りたいことがたくさんあります。正しくリスク評価ができていれば、これまでの統計情報の蓄積から、ある程度、治療の効果や今後の経過を予測することが出来ます。

グリーソン・スコアとは

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引用:What’s 前立腺がん

グリーソン・スコアとは、グリーソン博士が提唱したがんの悪性度の分類方法です。近年、前立腺がんの治療方法の選択やリスク評価に用いられています。悪性度が高いほどがん細胞が拡がっている可能性が高いと考えられます。

前立腺がんの診断のためには、がん組織を採取して顕微鏡で詳しく調べることが必要です。この際に、調べているがん組織の状態について「正常に近い(1点)」から「悪性度が高い(5点)」までの5段階のスコアが専門の医師(病理医)によって付けられます。調べているがん組織において、最も大きい面積を占める病変部分のスコアと2番目に大きい病変部分のスコアを足し合わせた数値がグリーソン・スコアです。グリーソン・スコアは最も正常に近い(2点)から最も悪性に近い(10点)までの9段階の値をとります。

前立腺がんのステージ別5年生存率

5年生存率とは何か。

がんの治療成績に対する指標として、5年相対生存率という指標があります。これは、日本人全体で、5年後に生きている人を100%としたときに、がんと診断された人が5年後に何%が生存しているかを表しています。つまり、5年相対生存率が100%であれば、がんによる死亡はないという事を意味しています(ただし、相対生存率が100%であっても他の原因により死亡してしまう可能性はあります)。そして、低くなればなるほど、治療にも関わらず生命を救うことが難しいがんであるということを示しています。

前立腺がんの5年生存率はどのくらいあるか。

前立腺がんの5年相対生存率については、全国がんセンター協議会による生存率共同調査が行われており、ステージ別の結果が公表されています。2008年~2010年の全ての患者さんについて調べた結果では、ステージIからIIIの患者さんでは100%、ステージIVでは、65.9%となっています。このうち、手術を受けた患者さんだけで見てみると、ステージIからIIIでは100%と変わりませんが、ステージIVでは82.1%となり、全ての患者さんで調べたときの生存率(65.9%)よりも高い結果になっています。これは、手術を受けることにより生存しやすくなっているということを意味しています。

さらに過去のデータを振り返ってみますと、2000年以降のデータにおいてもステージIからIIIは5年相対生存率100%ですし、ステージIVの相対生存率は年々徐々に上昇しています。

ステージ4の平均余命とは

前立腺がんステージIVの平均余命

多くの統計情報では、相対生存率が公表されていますが、平均余命については、数値で紹介されていません。しかし、公表されている生存分析のグラフ(どの位の時期にがんによる死亡に至っているのかを図示したグラフ)から、生存期間の中央値を読み取ることが出来ます。九州大学が公表しているグラフから、前立腺がんのステージIVの患者さんについて、生存期間の中央値を読み取ると約50ヶ月です。この数値はステージIVの患者さんが100人いたとすると、そのうちの半数にあたる50人は50ヶ月までに亡くなってしまうということを示しています。

転移部位による平均余命の違い

ステージIVの前立腺がんの方の平均余命は、転移した部位によってことなることが2016年の海外の研究結果として示されました。この研究によると、リンパ節転移のみで他の臓器への転移がない場合で生存期間の中央値が最も長く32ヶ月でした。最も短い結果となったのが、肝転移で14ヶ月でした。骨転移と肺転移はその中間で、それぞれ21ヶ月、19ヶ月でした。国や治療方法などについて違いがありますので、日本における生存期間とそのままでの比較は出来ませんが、転移している部位による違いが生じていると考えて良さそうです。

罹患数と死亡数の推移

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引用:What’s 前立腺がん

罹患者数の推移

前立腺がんに罹ってしまう方の推移はどのようになっているのでしょうか。国立がん研究センターが全国推計値として統計情報を公開しています。この統計によると1975年には、2,412人でしたが、徐々に増加し、1993年に10,000人を超え、2008年に50,000人を超えています。その後も増加傾向にあり、2011年から2015年までは毎年70,000人~80,000人の罹患者数となっています。増加傾向は今後も続き、2020年には100,000人を超えると予想されています。

このように前立腺がんが以前に比べて急激に増加している理由としては、日本人男性の高齢化や食生活の変化による高リスク者の増加やPSA検査の普及による発見率の増加が原因ではないかと考えられています。

死亡者数の推移

死亡者数についても国立がん研究センターが統計情報を公開しています。2009年以降は、毎年10,000人を超える方の死亡がありました。過去に遡ると1975年には死亡者数は1,267人で、その後も罹患者数と同様に増加はしています。しかし、増加幅は罹患者数よりも小さく、治療によって生存率が伸びていることが統計情報からもわかります。

前立腺がんの末期症状とケアに関して

前立腺がんの末期症状

前立腺がんの末期症状として、前立腺の中を通っている尿道が詰まってしまい、排尿できないような状態になってしまうことがあります。また、骨転移に関連した症状が多く発生します。特に、前立腺の近くにある腰椎や骨盤に転移しやすく、骨転移による強い腰の痛みや、下半身の麻痺が生じることもあります。また、骨以外にもリンパ節や肝臓、肺、脳などへの転移を起こすこともあり、転移したそれぞれの臓器の機能の低下や障害という形で症状が生じます。

緩和ケアについて

末期の前立腺がんでは、がんを完全に取り除くことが難しくなります。そのため、体や心のつらさを緩和するための治療(緩和ケア)に比重を移していきます。これまでは、がんの経過が進むまでは「がん本体」に対する治療を行い、治療終了後に体や心のつらさに対する緩和ケアを行うという考え方でした。しかし、前立腺がんの初期であっても体や心のつらさはあります。

そのため、最近の考え方では、緩和ケアは、がんの早い時期にも生活を守り、自分らしい暮らしを保つために必要なこととして捉えられています。つまり、緩和ケアは末期にだけ行う治療というわけではなく、がんの早期から生活の質を守るための治療・対策として行われています。

こうした緩和ケアは、担当医・看護師・麻酔科医・薬剤師・ソーシャルワーカーなどの緩和ケアチームが協力して、個々人の状況を踏まえて治療やアドバイスを行います。適切な緩和ケアの実施のためには、患者さん本人から痛みやつらい事柄を伝えることが必要になります。つらいことは、我慢しないで、自分の言葉で伝えることが重要です。

特に、前立腺がんは他の多くのがんとは異なり、ステージIVであっても高い生存率が期待できます。そのため、末期の症状による様々な体や心のつらさを取り除くための緩和ケアは大変重要です。前立腺がんと共に生きる人生を有意義なものにするためにも、積極的な緩和ケアの利用が必要となります。

記事内容の修正に関する報告
経歴:

2004年、医学部を卒業・医師免許取得(医籍登録番号は43万台)。その後、直ぐに大学院に進学し、疫学・予防医学・産業保健を研究した。大学院卒業後は、産業保健の実務を行いながら、医学研究を行っている。