口腔がん治療と副作用について

口腔がんと診断された場合、どのような治療法があるのか、とても心配になると思います。ドラマでは抗がん剤治療中の患者が髪の毛が抜け、嘔吐している画をよく見ます。治療によるキツさも気なりますが、まず、どのような治療方法があるのかを見ていきます。

口腔がんの主な治療法

手術のメリットとデメリット

がんの治療の目標は、がん細胞を体の中から除去する、もしくは消すことにあります。手術のメリットは他の治療法と比較してがんを体内から除去できる可能性が最も高い治療法です。口腔がんにおいては、全身麻酔が可能で切除が可能なら、まず手術を行います。

ただし、手術ができない方も多数おられます。まず全身状態が悪い方、特に心臓の機能や呼吸機能、腎機能が悪い人は、全身麻酔をかけること自体が危険であったり、長時間の手術の計画を短時間で終わるように計画しなおす、といった慎重な対応が必要になります。

また、がんを切除するときには周囲に10mm以上の余裕(安全域)をつけて切除する必要がありますが、その範囲内に命にかかわるような切除できないもの(重要な血管や神経など)があれば、すぐに手術することはできません。この場合は後で述べる抗がん剤や放射線治療を行って、がんを縮小させてから手術する方法を検討します。

口腔がん手術のデメリットは、切除するがんが小さい場合は切除して縫い縮める、もしくは特殊な絆創膏のようなもの(ネオベール+生体のり)を貼るという治療で済みますが、切除する部分が大きいと会話やえん下ができなくなってしまいます。そのため、切除した部分に見合ったボリュームの組織を移植し、再建する手術が必要になってきます。

持ってくる組織としては、前腕、腹直筋、大胸筋、太もも(外側大腿)の他、あごの骨も同時に再建するなら、すねの骨(腓骨)などが候補にあがります。切除+再建の手術になりますので、手術時間は長くなります。また再建できる専門家(形成外科など)の協力も必要です。

再建を行う手術の場合は術後に呼吸しにくくなるリスクがありますので、気道確保のために気管切開をすることもあります。術後おちつくまでは声が出せず、筆談になります。また喫煙者では痰が多く出ますので、そのつど痰を吸引するという管理も必要になってきます。

手術の後は、傷の治りを1週間ほど待ってリハビリが始まります。切除して残った筋肉で会話やえん下を行うため、言語聴覚士や理学療法士などが患者さんそれぞれの状況に応じた訓練を行います。

抗がん剤のメリットとデメリット

抗がん剤には飲み薬と点滴の2種類があります。

飲み薬のタイプは自宅でも治療ができること、そして副作用が点滴の抗がん剤ほどきつくないのですが、飲んだ抗がん剤が胃酸の影響を受け、腸で吸収されて血液に入って、というプロセスがあるので、飲んだ分すべてが血液に入るわけではありません。その分、効き目がマイルドです。

点滴タイプの抗がん剤は、直接血管の中に抗がん剤が入りますので、飲み薬よりがんを治療する効果が高いです。カテーテルという細い管を血管の中に通して病巣の近くまで入れ、抗がん剤を投与する方法もあります。高濃度の抗がん剤をがん細胞に届けることができるため、手足の血管から投与するよりも治療効果が出ます。

抗がん剤のデメリットは、全身にお薬が回りますので、がん細胞のみならず、健康な組織にもダメージを与えます。特に骨髄にある細胞にダメージが加わると、赤血球などの生産が影響を受け、貧血ぎみになります。また、嘔吐したり抜け毛も多いこともあります。

放射線のメリットとデメリット

放射線治療は、レントゲンを撮影するような装置で放射線を照射します。

メリットは、1日1回、週5回、治療は数分で終わります。治療開始時は外来通院で受ける方もいます。抗がん剤の投与時期を合わせると、それぞれ個別に行うよりもよく効きます。

デメリットとしては、まず放射線治療は、一生の間で治療が受けられる量に限界があります。過去の放射線治療歴や、どの範囲にどの程度照射されたのか、といった情報が重要です。

治療中、舌が照射範囲にはいってしまう場合は、味覚が落ちます。何を食べても砂を噛むような感じになります。治療する範囲には口内炎(放射線性口腔粘膜炎)が出ます。あごの骨に当たると貧血ぎみになりますし、あごの骨が壊死する危険性があります。抜歯しなければいけない歯は校舎線治療の前に抜歯を済ませておく必要があります。

その他の治療法

最近、開発が盛んな治療は、2018年のノーベル医学生理学賞を受賞した「分子標的薬」です。癌の増殖などに関係する特定の分子を狙い撃ちする薬です。新しい薬が日々開発されており、2020年1月現在、口腔がん(頭頸部がん)に使えるのはニボルマブ(オプジーボ)、セツキシマブ(アービタックス)、ペンブロリズマブ(キートルーダ)があります。

分子標的薬のメリットは、抗がん剤が効かなかったがんにも効果を示すことがあります。

デメリットは、まず、分子標的薬はとても高価です。役所と会計窓口で限度額認定の手続きを事前にしておく必要があります。また、治療効果が画像検査で確認できるまでに時間がかかります。

副作用が強く現れることがあります。初めて投与する時は、呼吸困難などの危険性を考慮し、気管内挿管ができる緊急セットをそばにおいて医師が見守る状態で投与します。副作用が問題ないと確認できれば、日帰りで投与できます。

口腔がんの再発や転移について

がんの特徴の2つとして、再発と転移があります。

再発した場合、切除可能な大きさ・範囲であれば、手術をします。転移については、どこまで転移したかによって対応が異なります。もし転移が頸部のリンパ節だけであれば、頸部郭清術という頸部のリンパ節を掃除する手術をします。

リンパ節はウイルス、細菌、がん細胞が全身に広がらないようにする防波堤の役目をしています。普段は小豆から大豆くらいの大きさで、やわらかく、押しても痛くありません。しかし、がん細胞を見つけると、リンパ節の中に留め、さらに広がらないようにします。

リンパ節の中でがん細胞は無秩序に増殖していきます。そのスピードはとても早く、がん細胞1個が2個、2個が4個、と倍々に増えていきます。この繰り返しで、がん細胞のかたまりがある程度の大きさになると、CTや超音波検査でも見つかるようになります。言い換えると、ある程度の大きさになるまではリンパ節に転移していても検出できません。

また、リンパ節どうしはリンパ管というネットワークで繋がっています。このリンパ管の中にもがん細胞がいる可能性があります。リンパ管はとても細く、目で見てなかなか分かりづらいものです。そのため、頸部郭清術はリンパ節だけを取るのではなく、決められた区画の中にあるものを全て取り出します。

首のリンパ節を超えて転移する場合は、血管の細い部分にがん細胞がひっかかり、そこで増殖することで判明します。肺、脳、骨(脊椎、骨盤)、肝臓などがよく転移する場所です。手術でがんが取り除けるならば手術を検討しますが、がん細胞が全身を回っていることを考え、抗がん剤や分子標的薬を投与することもあります。

これらの治療法が効かない、もしくは全身状態の関係で治療ができない、ただ治療がきついだけの場合は、Best Supportive Care(BSC)に移行します。これはがんの治療よりも患者の生活の質(QOL)、活動性(ADL)をあげることを目標としたものです。がんによる痛みに対して鎮痛剤を使って痛みを抑えたり、食事しにくい場合には栄養補助食品を併用しつつ、家族や友人との時間をとることを優先します。

記事内容の修正に関する報告
  • 歯科医師
  • 見立 英史
  • 日本口腔外科学会専門医・認定医、日本口腔科学会認定医
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親知らずの抜歯から口腔がんまで、さまざまなお口の病変について日々診療しています。