肺がん治療と副作用について

肺がんの治療方法には手術、薬物療法、放射線療法などがあります。

多くのがんでは基本の治療は手術になりますが、肺がんの場合には薬物療法や放射線治療のほうが手術よりも効果が高い場合もあり、がん細胞のタイプや病気のひろがり具合、本人の体力などを検討して治療方針は決定されます。

ここでは肺がんに対して行われる治療の基礎知識を紹介します。病院の説明を受ける前に目を通しておくと、多少病院での説明も理解しやすくなるでしょう。病院で治療方針の説明を聞くときのポイントは、がんの場所やステージ、転移の有無など病気の状態、なぜその治療法がよいのか、その治療のメリットとデメリット、その治療以外の選択肢があるのかないのかといったことを聞くことが重要です。

肺がんの主な治療法

基本的な治療方針

肺がんの治療方法には手術、薬物療法(抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤)、放射線療法などがあります。これらの治療は単独で行う場合もあれば、組み合わせて行なうこともあります。

肺がんの治療方針を決めるときには、まずがん細胞の種類で分類をします。具体的には薬物療法や放射線療法が効きやすい小細胞がんと、それ以外の非小細胞がんで分けて、治療方針を決定します。

小細胞がんの場合

小細胞がんの場合はさらに病気のひろがり具合で限局型と進展型に分けます。

限局型:がんが片方の肺の中にとどまっている。もしくは 反対側の縦隔および鎖骨上窩リンパ節までに限られている。   悪性胸水や心嚢水がない
進展型:限局型以外

また、治療方針の決定にはパフォーマンスステイタス(PS)も重要です。PSとは自力で日常生活がどの程度過ごせるかを0から4まで、5段階に数値化したものです。

0:全く問題なく生活できる。

1:肉体的に激しいことはできないが、歩行ができ、座って行なう作業は可能。

2:歩行は可能で、自分の身の回りのことはできるが、家事などの作業はできない。1日の半分以上をベッド以外で過ごしている。

3:1日の半分以上をベッドか椅子で過ごす。

4:自分の身の回りのことは全くできない。常にベッドか椅子で過ごす。

小細胞がんの基本的な治療は

限局型のステージ1・2A
手術+薬物療法
限局型だがステージ2B以上
PS0-2では手術+薬物療法
PS3では薬物療法
PS4は緩和ケアのみ(条件により薬物療法)
進展型
PS0-3では薬物療法
PS4では緩和ケアのみ(条件により薬物療法)

となります。

小細胞がんは脳に転移しやすいため、限局型の場合でも脳に放射線を照射することが標準治療となっています。この治療を予防的全脳照射といいます。

非小細胞がんの場合

非小細胞がんの基本的な治療は

ステージ1・2・3A
手術(場合によっては手術後薬物療法)
ステージ3B・3C
薬物療法+放射線治療(場合によっては薬物療法単独もしくは放射線治療単独)
ステージ4
薬物療法

となります。

手術のメリットとデメリット

肺がんの手術には肺葉切除術、縮小手術、片肺全摘術があります。
肺は右と左にありますが、さらに右の肺は気管支や血管の分布で上葉、中葉、下葉の3つに、左の肺は上葉、下葉の2つに分けられます。このように分けたエリアを肺葉と言います。(つまり右には3つの肺葉が、左には2つの肺葉がある、ということになります。)
気管支を切除すれば、その先の肺には空気も入らず、栄養も届かないことになりますので、機能しません。そのため手術では基本的に肺葉単位で切除範囲を決めます。
1つのがんが1つの肺葉の中にとどまっている場合は肺葉切除術となりますが、がんがとても小さい場合や、肺にほかの疾患があり肺葉1つを切除してしまうと、その後の呼吸機能に大きな影響を与えると推測される場合には縮小手術といって肺葉の一部を切除することもあります。ただし、縮小手術はがん再発の可能性が上がるため、あくまで基本は肺葉切除術です。
がんが複数の肺葉にまたがって存在する場合や、肺門部(気管支が最初に枝分かれする場所)に近い場合には左もしくは右の肺全てを切除する片肺全摘術になります。

手術のメリット

がんを丸ごと取り出すため、画像検査で見える大きさの病変は確実に体外にとりだすことができます。取り出した病変をさらに顕微鏡などで検査することにより、その時点でのがんの状態をさらに詳しく明らかにすることができます。

手術のデメリット

肺の一部を取り除くため、本来の肺の機能である酸素を取り込む能力が低下します。手術後、特に症状を感じない人もいますが、中には息苦しさを感じたり、日常的に酸素吸入が必要になる場合もあります。

また、手術前にどんなに検査や準備をしても、手術や全身麻酔による合併症の危険性をゼロにすることはできません。そのため、病院はあらゆる想定をもとに予防や術後の診察を行い、偶発症を早期に発見し迅速に対応するようにしています。しかし、自分の体のことですからすべて病院任せにせず、自分でも偶発症が起きた場合にすぐ気づけるように、自分の手術ではどんな偶発症が起こりうるのかをきちんと聞いておきましょう。
比較的頻度の高い合併症は以下の通りです。

無気肺・肺炎
肺の手術後は痰が多く出ます。手術後の創部の痛みなどで痰が十分出せないと、気管支に詰まることがあり、そこから先の肺に空気が入らなくなった状態を無気肺と言います。さらに無気肺から感染を起こし、肺炎になることもあります。
肺胞瘻(はいほうろう)
手術で切った部位から空気が漏れること。多くは特別な治療を必要とせず自然に改善するが、改善しない場合は胸に薬を注入したり再手術が必要になることがある。
気管支断端瘻
気管支から空気が漏れる状態。穴が大きい場合、手術が必要にあることもある。
乳糜(にゅうび)胸水
リンパが集まる胸管が傷つき、胸の中に漏れて胸水に混ざること。
不整脈
脈が乱れること。自然に治ることもあるが、点滴や飲み薬による治療が必要になることもある。
創部感染
手術の傷に細菌が感染すること。
膿胸
肺が入っている胸腔という空間に膿が貯まった状態。
出血
傷口からの出血や胸腔内での出血などがあります。
下肢深部静脈血栓・肺血栓塞栓症
足の動きが減ることで、足の血管に血栓(血の塊)ができること。もしくはその血栓が肺に飛んで、肺の血管が詰まること。
反回神経麻痺
脳から出て、胸を通ってのどにつながっている反回神経の損傷。声帯を動かす役目をしているので、声がかすれたり、ものをうまく飲みこめなくなったりします。多くは3カ月程度で改善しますが、まれに永久的に後遺症として残ることもあります。
せん妄
手術や入院のストレスなどの原因でおきる意識障害。意味不明な言動や幻覚・幻聴、暴れるといった異常行動がみられる。

合併症により退院予定が延期する割合は約10%、再手術が必要になったり、後遺症として残る割合は3%と報告されています。

薬物療法のメリットとデメリット

肺がんの薬物療法でよく使用される薬

<抗がん剤>

プラチナ製剤
二本鎖のDNAを結びつけることで複製を阻害する
代謝拮抗薬
DNAやRNAと似た形をしていることから細胞内に取り込まれてDNAの合成を阻害する
トポイソメラーゼ阻害剤
細胞分裂するときにDNAを切り離したり、再度結合するときに働くトポイソメラーゼという酵素の働きを阻害する
微小管作用薬
細胞分裂に関係している微小管に働きかけて、がん細胞の分裂を妨げる
アルキル化薬
がん細胞のDNAにアルキル基をくっつけ、DNAの構造を変化させる

<分子標的薬>
がん細胞のDNAの異常を調べ、その異常に対して使用する薬です。肺がん患者の遺伝子異常はその約40%に上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の異常を、そのほかに数%の割合でALK融合遺伝子やMET遺伝子などざまざまな遺伝子異常が認められます。これらの遺伝子異常に合わせてEGFR阻害剤やALK阻害剤、MET阻害剤などの分子標的薬を使用します。

<免疫チェックポイント阻害剤>
免疫チェックポイント阻害剤とはがんを攻撃することができるTリンパ球の力を強める薬です。現在肺がんに使用されている免疫チェックポイント阻害剤はニボルバブ、ペムブロリズマブ、アテゾリスマブ、デュルバルマブなどがあります。

薬物療法のメリット

薬物療法は全身投与のため、画像検査で見つけることができないごく小さながん細胞に対しても効果を発揮します。特に小細胞がんは転移しやすいため、薬物療法が治療の主体となっています。

薬物療法のデメリット

薬による副作用の可能性があります。副作用には薬を投与してすぐに現れるものもあれば、後日症状が出たり、投与ををやめた後でも症状が続くものもあります。また、症状としては現れなくても、血液検査やレントゲンなどで判明する副作用もあるので、定期的な検査が必要です。

抗がん剤の副作用には吐き気や便秘・下痢、脱毛やしびれ、腎機能障害や貧血などがあります。また薬に対するアレルギー反応として蕁麻疹や息苦しさ、のどが詰まった感じがします。重症化した場合は意識を失ったり、ショック状態になります。このアレルギー反応は1回目から発現する場合もあれば、数回投与してから発症することもあります。

分子標的薬の副作用としては血圧の上昇、手足の皮膚の荒れ、傷の治りが悪くなる、甲状腺機能低下、下痢、血糖やコレステロール値の上昇、間質性肺炎などがあります。分子標的薬に多い副作用としては輸注反応(インフュージョンリアクション)があります。基本的には初めて薬を投与されたあと、24時間以内に発症することが多く、発熱や息苦しさ、血圧低下などが見られますが、重症化はまれです。

免疫チェックポイント阻害剤は免疫を高める関連の副作用があります。免疫機能の暴走による倦怠感、吐き気、下痢があります。また、稀ですが重篤な副作用としては間質性肺炎、脳炎、心筋炎、重症筋無力症、糖尿病などがあります。

放射線治療のメリットとデメリット

放射線治療は非小細胞がんのステージ1~3、小細胞がんの限局型などで行なわれます。
ステージ1の基本的な治療は手術ですが、高齢者や持病があって手術が難しい場合、病変に放射線を照射することで予後が改善することがわかっています。
また、小細胞がんで、肺の病変に改善がみられる場合では、脳転移を予防するために脳に放射線照射を行ことがあります(予防的全脳照射)。
ステージ4の場合でも骨や脳に転移がある場合には症状を和らげる目的で放射線照射を行うことがあります。

放射線のメリット

放射線治療そのものはじっと寝ているだけで行うことができるので、高齢者や体力低下がある場合でも治療を行うことが可能です。また基本的には通院で放射線治療ができます。
また肺がんの転移先の症状の緩和が可能です。例えば脳転移による麻痺や痺れといった神経症状や、骨に転移した際の痛みなどには放射線療法は有効です。

放射線のデメリット

放射線治療の副作用としては放射線が通る皮膚の部分に日焼けのような変化が見られます。そのほかに放射線の通り道に食道が含まれる場合には、食道炎を起こして食べ物がつかえる感じがする場合もあります。これらの副作用は比較的早く出てくることが多いですが、放射線を当てた位置に起きる放射線肺炎や心膜炎、肋骨骨折などは治療が終わってから出現することもあります。
また、放射線治療のできる施設は限られており、どこの病院でも可能な治療ではありません。

その他の治療法

レーザー療法

光線力学的療法(PDT)と呼ばれるレーザー治療は限られた条件でしか行うことはできませんが、本来治療の難しかった肺の中心に近い気管支から発生した中心型肺がんで、病変の大きさが小さい場合にがんの根治を目指して行うことができる治療です。通常は気管支鏡で確認できる病変で1㎝以下が対象となります。

レーザーとというと焼き切るイメージがあるかもしれませんが、PDTは病変を切る治療ではなく、光を当てると化学反応を起こす物質(腫瘍親和性光感性物質)ががんに集まりやすい性質を利用して、がんを狙い撃つ治療です。具体的には腫瘍親和性光感性物質を注射して、気管支に気管支鏡を挿入し、病変にレーザーを当てて治療します。
条件が合えば治療効果が高く、1回の治療で80%以上の人にがんの完全消失が認められています。副作用としては日光過敏があり、しばらくの期間日焼け止めを塗り直射日光を避ける必要があります。

臨床試験

標準的な治療として確立されてはいませんが、理論上肺がんに効果が期待できる治療を受けることができます。限られた病院で実施されています。

緩和ケア

一昔前、緩和ケアは治療法のないがん患者に対して行われるといったイメージでしたが、最近ではすべてのがん患者において肉体的・精神的サポートを行うために緩和ケアが重要と考えられています。そのため、「あなたには緩和ケアが必要です」と言われても、早とちりして「私はもう治療できないんだ」と思わないでください。治療が順調に進んでいても、がん患者さんの多くはがんと宣告されたときから様々な不安を持っています。そしてがんによる症状、治療による副作用、治療後の後遺症に悩む方もいます。そのような肉体的・精神的ケアを行うのが現代の緩和ケアです。
「がんと言われて不安だ」「抗がん剤の治療をしているから吐き気くらいは我慢しなければならない」「治療費がどのくらいか心配だ」といったがんにまつわる様々な不安・症状を取り除くのが緩和ケアです。

肺がんの再発や転移について

肺がんの再発や転移は多くが2年以内に起こります。治療後5年を経過して再発が見られない場合には、基本的に完治したと考えます。

肺がんの再発

肺がんの再発は治療した部位に再び病変が現れる局所再発、その付近やその領域のリンパ節に再発する領域再発、離れた位置で再発する遠隔再発があります。
基本的には再発の場合の治療方針も初発の肺がんと同じように細胞のタイプや病気のひろがり具合により治療方針を決めます。

肺がんの転移

肺がんの遠隔転移で多いのは脳、骨、肝臓、副腎です。転移に対する治療は薬物療法の効果が期待できるようであれば薬物療法を行います。薬物療法の効果が期待できない場合には手術や放射線療法を検討します。

記事内容の修正に関する報告
経歴:
日本内科学会総合内科専門医/日本消化器内視鏡学会専門医 大学病院・二次救急病院・在宅医療での勤務。現在は医療系記事のライターとして活動し監修歴は4年。