膀胱がん治療と副作用について

膀胱がんの治療の基本は手術になります。

手術には膀胱を取り出す膀胱全摘除術と、膀胱の壁を削り取るTURBTがありますが、さらにどのように尿路を作り直すかといった問題や、頻度の高い再発をどのように防ぐかといったことも考えなければなりません。場合によってはさらに抗がん剤や放射線療法を追加して根治をめざします。

ここでは膀胱がんに対して行われる治療の基礎知識を紹介します。病院の説明を受ける前に目を通しておくと、多少病院での説明も理解しやすくなるでしょう。

病院で治療方針の説明を聞くときのポイントは、自分のがんのステージや転移の有無といった病気の状態、なぜその治療法がよいのか、その治療のメリットとデメリット、そしてその治療を受けた後の生活はどのように変わるのかなどを聞くことが重要です。

膀胱がんの主な治療法

手術のメリットとデメリット

膀胱がんの手術は膀胱をすべて取り出す膀胱全摘除術と、尿道からカメラを入れて膀胱の内側を削るようにしてがんを切除する経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)があります。TURBTで切除できるのは粘膜下層までになるので、TURBTで完治が望めるのはステージ1までということになります。

TURBTの大まかな流れは以下のようになります。

  1. 下半身の麻酔を行います。背中側から背骨に針を刺して麻酔薬を注入します。下半身の痛みは感じなくなりますが、意識はありますので、会話などは普通にできます。
  2. 尿道から内視鏡を挿入し、膀胱の中に水を入れて膀胱をふくらませて病変を確認します。
  3. 内視鏡から電気メスを突き出して、膀胱の内側を削り取るようにして切除します。出血した部位は電気メスを押し付けて熱で凝固させて止血します。
  4. 切除が終わったら、膀胱から外に尿を出す尿道カテーテルを入れて終了です。尿道カテーテルは尿の色を確認して出血の具合を見たり、尿道に内視鏡を挿入した刺激で尿閉になることを防ぎます。場合によっては尿道カテーテルから抗がん剤を注入したり、膀胱を洗浄する目的で水を出し入れする処置が行われることもあります。
  5. 問題がなければ尿道カテーテルは手術の翌日、もしくは2日後あたりで抜去します。

手術時間は1-2時間、入院期間は1週間程度です。

開腹手術で行う膀胱全摘除術の大まかな流れは以下のようになります。

  1. 全身麻酔で行います。
  2. おへその上からお腹の下まで腹部を切開します。
  3. 膀胱を取り出します。男性はそのほかに前立腺と精嚢を取り出します。女性では子宮、膣の一部、尿道、場合によっては卵巣も切除します。
  4. 新たに尿の通り道を作る尿路変向術を行います。尿路変向術にはいくつかの種類があり、代用膀胱を用いて尿道につなぐ方法や、腹壁に尿の出口であるストーマを作る方法があります。
  5. お腹の中から外にドレーンと呼ばれる管を入れておなかを閉じます。このドレーンは手術後にお腹の中に尿が漏れたり出血した場合にいち早く発見する役割があります。

手術時間は6-7時間、入院期間は2-3週間前後です。

膀胱全摘除術は開腹手術以外に、お腹に小さな穴を数カ所あけて内視鏡などを挿入して行う腹腔鏡手術があります。さらに施設によっては手術支援ロボットを用いて手術を行う施設もあります。手術支援ロボットを用いるメリットとしては、手術部位を拡大して見ることができる、道具の手ブレを防ぐ、手術時間を短くすることで手術後の腎機能低下を防ぐ、といった良さがあります。

手術のメリット

病変を切り取り体外にとりだすことができ、取り出した病変を顕微鏡検査することにより、がんの本当の進行具合や治療が適切にできたかどうかの評価を行なうことができます。

手術のデメリット

手術前にどんなに検査や準備をしても、手術や全身麻酔による合併症の危険性をゼロにすることはできません。そのため、病院はあらゆる想定をもとに予防や術後の診察を行い、合併症を早期に発見し迅速に対応するようにしています。しかし、自分の体のことですからすべて病院任せにせず、自分でも合併症が起きた場合にすぐ気づけるように、自分の手術ではどんな合併症が起こりうるのかをきちんと聞いておきましょう。
比較的頻度の高い合併症は以下の通りです。

出血
膀胱は血管の多い臓器であり、血尿やおなかの中に出血することがあります。時には輸血が必要になることもあります。
創部感染
手術の傷に細菌感染すること。
肺炎
全身麻酔時の人工呼吸器などの影響で肺に感染が起きること。
下肢深部静脈血栓・肺血栓塞栓症
足の動きが減ることで、足の血管に血栓(血の塊)ができること。もしくはその血栓が肺に飛んで、肺の血管が詰まること。
せん妄
手術や入院のストレスなどの原因でおきる意識障害。意味不明な言動や幻覚・幻聴、暴れるといった異常行動がみられる。
腸閉塞
腸の動きが悪くなったり、腸がくっつくことで、食べ物が腸の中を移動できなくなることがあります。
尿失禁
膀胱全摘除術で代用膀胱を尿道につないだ場合は必ず見られる症状です。骨盤底筋訓練を行うことで多くの人は改善しますが、長く続く人もいます。
尿閉・残尿
代用膀胱は本来の膀胱のように縮まないため、腹圧をかけて排尿する必要があります。うまく腹圧がかけられないと尿が出せなくなり尿閉になることがあります。場合によっては手術からかなり時間があいたあとに尿道狭窄があらわれて尿閉になることもあります。尿は出るけれども全部出しきれない場合は残尿という状態になります。いずれの場合も、必要に応じて自分で尿道から管を入れる自己導尿を行う場合があります。
勃起障害(男性)
膀胱全摘除術で勃起神経を切除すると勃起障害が起きます。また、精嚢を切除するため射精もできなくなります。

膀胱は血管の多い臓器であること、膀胱全摘除術の場合は膀胱だけでなく周囲の臓器もあわせて切除すること、尿の通り道でもあることから比較的合併症の多い手術となります。
再手術が必要になるのは17-33%、手術に関連した死亡率は約3%という報告があります。

抗がん剤のメリットとデメリット

膀胱がんに対して行う抗がん剤治療は大きく分けて全身投与と、膀胱内に薬を注入する膀胱内注入療法があります。

膀胱内注入療法は基本的にがんが筋層におよんでいない場合(ステージ0~1期)に行われます。抗がん剤を注入する場合は、基本TURBTで病変を削り取り、留置された尿道カテーテルから手術当日、もしくは翌日に注入します。尿道カテーテルを1時間程度閉塞させて膀胱に抗がん剤がたまった状態で過ごします。多くの場合は1回の注入で終了となりますが、場合によってはその後も定期的に同じ治療を行うことがあります。

抗がん剤の全身投与は通常がんが筋層に及んでいる場合に、膀胱全摘除術とセットで行われる治療です。筋層までおよんだ膀胱がんに対し、膀胱全摘除術だけをおこなった場合の5年生存率は50%程度です。そのため手術の前、もしくは手術の後に補助化学療法として抗がん剤投与が行われます。

GC療法(ゲムシダビン・シスプラチン療法)
後述するM-VAC療法と比較して治療効果は同等で、かつ副作用が少ないことで現在主流となっている治療です。
M-VAC(メソトレキセート、ビンブラスチン、アドリアマイシン、シスプラチン)
GC療法が登場するまでは最も行われていた治療ですが、より副作用が少なく治療効果が同等なGC療法に現在は変わりつつあります。

そのほかにゲムシダビン+パクリタキセル、ゲムシダビン+シスプラチン+パクリタキセルといった治療もあります。

抗がん剤のメリット

全身投与の薬は、目に見えないような転移があった場合でも、効果を発揮します。

抗がん剤のデメリット

薬による副作用の可能性があります。膀胱がんに使用される剤で多い副作用は吐き気、食欲不振、白血球減少、血小板減少、貧血、口内炎などです。副作用には薬を投与してすぐに現れるものもあれば、後日症状が出たり、投与をやめた後でも症状が続くものもあります。また、症状としては現れなくても、血液検査やレントゲンなどで判明する副作用もあるので、定期的な検査が必要です。

放射線治療のメリットとデメリット

放射線単独の治療は他の治療の比較して治療効果が低く、浸潤がんでの治癒率は20-50%と報告されています。しかし、本来は膀胱全摘除術となるがんが筋層に浸潤した状態でも、膀胱を残したいと強く希望した場合、以下の条件を満たせばTURBT後に抗がん剤と放射線療法を併用して治療を行うことがあります。

  • がんが膀胱外に浸潤していない
  • 病変の数が少ない
  • がんの大きさが小さい

また、膀胱がんが脳や肺、骨に転移して痛みや麻痺などの症状が現れた場合には、その病変に放射線を当てることで症状が和らぐことがあります。

放射線のメリット

転移先の症状の緩和が可能です。例えば脳転移による麻痺や痺れといった神経症状や、骨に転移した際の痛みなどには放射線療法は有効です。
放射線治療そのものはじっと寝ているだけで行うことができるので、体力低下や腎機能障害などがあっても行うことが可能です。また全身状態がよければ通院での治療が可能です。

放射線のデメリット

放射線治療の副作用としては放射線が通る皮膚の部分に日焼けのような変化が見られます。そのほかに膀胱萎縮や直腸出血、腸管穿孔などの副作用が出る場合があります。
また、放射線治療のできる施設は限られており、どこの病院でも可能な治療ではありません。

その他の治療法

BCG療法

膀胱内注入療法には抗がん剤を注入する他に、BCG(ウシ型弱毒結核菌)を注入する治療もあります。BCGが膀胱がんに効く機序は明らかになっていませんが、がん細胞を減らすような免疫反応を引き起こすと考えられています。

BCGの膀胱内注入は週に1回尿道カテーテルから注入し、6~8回繰り返します。BCG療法の効果は半年程度という報告もあるので、効果が切れる頃にBCGの膀胱内注入を追加することもあります。

隆起を作らない上皮内がん(Tis)はTURBTを行っても取り切れない可能性があり、BCG療法が標準治療となります。上皮内がんの80-90%がBCG療法で消失すると考えられています。

抗がん剤とBCGの注入療法を比較した場合、治療効果はBCGの方が高いのですが、副作用も多いと報告されており、予定通りに最後までBCG療法を続けられない人がたくさんいることが課題となっています。BCG療法の副作用としてはほとんどの人に排尿痛や頻尿、血尿が認められます。そのほかに全身症状として発熱や関節痛などがあります。しかしBCG療法は5年以内の再発率を半分にしたという報告もあり、どのように副作用と付き合って最後まで治療を続けるかが課題となっています。

免疫チェックポイント阻害剤

近年、通常の抗がん剤治療の効果が見られなかった場合に、免疫チェックポイント阻害剤による治療ができるようになりました。膀胱がんに適応があるのはペムブロリズマブです。免疫チェックポイント阻害剤とはがんを攻撃することができるTリンパ球の力を強める薬です。

ヒトの血液の中にあるTリンパ球はがん細胞の表面になるがん抗原というマークを見つけてがん細胞にくっつき、がん細胞を攻撃します。

しかし、免疫システムの暴走を防ぐために、Tリンパ球の表面にはTリンパ球の働きを止めるスイッチ(PD-1)が存在しています。がん細胞にはこのスイッチを押すことができるPD-L1、PD-L2を作ることができるのです。このPD-L1、PD-L2がPD-1と結合するとTリンパ球は働きを止めてしまうため、がん細胞を攻撃することができなくなってしまいます。ペムブロリズマブは別名「ヒト化IgG4モノクローナル抗体」であり、Tリンパ球のPD-1に先にくっついてスイッチを押せないようにブロックすることで、Tリンパ球の働きを継続させてがん細胞を攻撃させる薬です。

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫システムが暴走する働きをブロックする薬であり、副作用としては免疫機能の暴走による倦怠感、吐き気、下痢があります。また、稀ですが重篤な副作用としては間質性肺炎、脳炎、心筋炎、重症筋無力症、糖尿病、消化管に穴があくといったことがありえます。

臨床試験

標準的な治療として確立されてはいませんが、理論上膀胱がんに効果が期待できる治療を受けることができます。限られた病院で実施されています。

緩和ケア

一昔前、緩和ケアは治療法のないがん患者に対して行われるといったイメージでしたが、最近ではすべてのがん患者において肉体的・精神的サポートを行うために緩和ケアが重要と考えられています。

そのため、「あなたには緩和ケアが必要です」と言われても、早とちりして「私はもう治療できないんだ」と思わないでください。治療が順調に進んでいても、がん患者さんの多くはがんと宣告されたときから様々な不安を持っています。そしてがんによる症状、治療による副作用、治療後の後遺症に悩む方もいます。そのような肉体的・精神的ケアを行うのが現代の緩和ケアです。

「がんと言われて不安だ」「抗がん剤の治療をしているから吐き気くらいは我慢しなければならない」「治療費がどのくらいか心配だ」といったがんにまつわる様々な不安・症状を取り除くのが緩和ケアです。

膀胱がんの再発や転移について

膀胱がんの再発

膀胱がんはほかのがんよりも同時にいくつもの病変が出てきたり、何度も再発することが多い病気です。はじめてTURBTの対象となる表在性のがんが見つかった人の5年以内の再発率は55.8%ですが、2回目の人を対象にした5年以内の再発率は72.4%と高くなります。また膀胱全摘除術後の再発率は5年で32%、10年で40%という報告があります。

TURBT後に再発がみられた場合、筋層までおよんでいなければもう一度TURBTが行われます。しかしそれ以上に進行している場合は膀胱全摘除術を、転移がある場合は抗がん剤の全身投与を行います。膀胱全摘除術後の再発では抗がん剤の全身投与を行います。また、抗がん剤の効果が期待できなくなった場合には免疫チェックポイント阻害薬を使います。

膀胱がんの転移

膀胱がんの転移先で多いのはリンパ節、肝臓、肺、骨です。肺やリンパ節転移には抗がん剤の投与が効きやすく、肝臓や骨の場合は効果が得られにくいと言われています。抗がん剤が効きにくい場合には免疫チェックポイント阻害薬を使用します。

記事内容の修正に関する報告
経歴:
日本内科学会総合内科専門医/日本消化器内視鏡学会専門医 大学病院・二次救急病院・在宅医療での勤務。現在は医療系記事のライターとして活動し監修歴は4年。