ヴォトリエントが適応となるがんの種類と治療効果・副作用一覧

皆さんはヴォトリエントについて、どのくらいご存知でしょうか。国内では希少がんである悪性軟部肉腫の新しい治療薬として発売され、その作用機序から今後の悪性軟部肉腫治療への貢献が期待されている薬剤ですが、高い副作用リスクもあるため、投与には十分な注意が必要であり、患者自身も薬剤についてのしっかりした理解と知識が必要になります。

今回はヴォトリエントについて詳しく解説していきましょう。

ヴォトリエント(一般名:パゾパニブ)とは

ヴォトリエントは、イギリスの製薬企業グラクソ・スミスクライン株式会社(略称:GSK)が開発・創製した抗がん剤で、国外(米国)では2009年、国内では2012年より販売されています。現在は、2015年よりGSKよりがん領域事業が移管されたノバルティスが製造販売を行っています。

マルチチロシンキナーゼ阻害薬と呼ばれる薬剤で、細胞増殖に関わる分子(酵素など)を阻害する分子標的治療薬に分類されており、従来の細胞障害性抗がん剤(アルキル化剤・白金製剤・代謝拮抗薬など)とは異なる作用でがん細胞増殖を抑制するため、先行抗がん剤療法が無効となった対象に対して効果が期待されています。
剤形は錠剤のみで、1日1回経口投与を行っていきます。

ヴォトリエントが適応となるがんの種類

現在、国内においてヴォトリエントが適応となるがんの種類は、悪性軟部肉腫と腎細胞がん(根治切除不能又は転移性)になります。

悪性軟部肉腫の治療は切除手術を原則としているため、化学療法は第一選択ではありませんが、安全に切除できない場合や転移巣の治療が必要な場合には、従来の細胞障害性抗がん剤との併用または単独などで本剤が用いられています。

腎細胞がんは、細胞障害性抗がん剤のがんに対する感受性が低いため、分子標的薬が化学療法の第一選択として用いられており、様々なタイプの薬剤から患者個々の状態にあわせて選択されます。ただ、本剤はまだ新しい薬剤であるため第一選択薬として用いられていないのが現状です。

ヴォトリエントに期待される治療効果

作用機序・効果効能

がん細胞も正常な細胞同様、成長・増殖には栄養素や酸素が必要になります。そこで、がん細胞は血管内皮細胞増殖因子(略称:VEGF)や血小板由来成長因子(略称:PDGF)と呼ばれる物質を放出し、血管にあるそれら因子受容体に結合させチロシンキナーゼ(細胞増殖の伝達因子となる酵素)を活性化させることで、がん細胞に血管を生成させ、栄養や酸素の供給経路を自ら作り出していきます。それにより無秩序に増殖していくわけです。

ヴォトリエントは、これらVEGF受容体・PDGF受容体などに作用し働きを特異的に阻害することで、がん細胞増殖を低下させ、抗がん効果を現わしていきます。また、継続的に投与することによりアポトーシス(細胞の自然死)を誘導する効果も期待できます。

治験・臨床結果など使用実績

ヴォトリエントの臨床成績は、国際共同試験(日本人含む)において、各適応がんに対しプラセボ又は他の抗がん剤との無増悪生存期間(がんが進行せず安定した状態である期間)の比較判定にて行われています。

悪性軟部肉腫においては、プラセボ群との比較試験が行われ、無増悪生存期間の中央値がプラセボ群が7週であったのに対し、本剤群は20週と大きく延長が認められています。

腎細胞がんにおいては、腎細胞がん術後補助化学療法の第一選択である分子標的薬スニチニブ(先発品スーテント)群との比較試験が行われ、無増悪生存期間の中央値はスニチニブ群が9.5か月であったのに対し、本剤群は8.4か月と、データとしては若干劣るものの、同等の効果が認められています。

主な副作用と発現時期

ヴォトリエントの副作用調査は、国際共同試験(日本人含む)において悪性軟部肉腫患者・腎細胞がん患者それぞれを対象に行われています。試験対象人数が異なるため発現頻度には若干の誤差がありますが、基本的な投与量は同じであるため、副作用の種類に差はありません。

下記は、悪性軟部肉腫患者並びに腎細胞がん患者を対象とした結果を合わせて算出した発現頻度になります。

主な副作用症状

全体の副作用発現率は93.5%となっており、主な副作用及び検査値異常に、下痢53.5%、高血圧42.0%、疲労感41.5%、悪心37.0%、毛髪変色34.2%、食欲減退30.0%、肝機能障害28.4%、味覚異常23.0%、嘔吐22.3%が報告されています。

注意すべき重大な副作用症状または疾患

重大な副作用として、高血圧クリーゼ(血圧の著しい上昇による臓器障害)、心機能障害(うっ血性心不全・左室駆出率低下・心室性不整脈など)、動脈血栓性事象(心筋梗塞・狭心症・虚血性脳卒中・心筋虚血など)、静脈血栓性事象(静脈血栓症・肺塞栓症など)、肝不全、出血(脳出血・消化管出血・血尿・鼻血など)、甲状腺機能障害、ネフローゼ症候群(低たんぱく血症・浮腫)、感染症、創傷治癒遅延、間質性肺炎、血栓性微小血管症(血小板減少・溶血性尿毒症・貧血・腎機能障害)、膵炎、網膜剥離などが報告されています。

いずれも5%以下または頻度不明と発現率は低いですが、検査等で発覚する疾患も多く、放置することで重篤化する恐れがあります。

ヴォトリエントの安全性と使用上の注意

安全性

ヴォトリエントは、副作用発現頻度も高く、また使用経験が少ないことで今後予期せぬ副作用が現れる恐れも十分に考えられます。

ただ、抗がん剤治療では必ずしも「安全性の高さ=副作用の少なさ」ではなく、ある程度副作用が現れる前提で考えている場合が多く、適した対策や対処法をとりながら、治療効果を高めていくことを重要視しています。本剤は、緊急時に十分な対応ができる医療施設において、がん化学療法に十分な知識と経験を持つ医師のもとでのみ用いることができる薬剤であるため、投与は十分な注意と経過観察のもと行われています。

使用上の注意(投与・併用)

本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある方、妊婦又は妊娠している可能性のある方への投与は禁止されています。また、腎機能障害、肝機能障害、高血圧症、心機能障害、血栓塞栓症、がんの脳転移・肺転移を有する又は既往歴のある方への投与は副作用が強く現れる場合があるため慎重投与とされています。

併用に注意が必要なものには、本剤の吸収が低下するとしてプロトンポンプ阻害薬(タケプロン・パリエットなど)、代謝に影響するとしてケトコナゾール(抗菌薬)・カルバマゼピン(抗てんかん薬)・フェイトイン(抗てんかん薬)・パクリタキセル(微小管脱重合阻害薬)・ラバチニブ(分子標的薬)などがあります。

まとめ

ヴォトリエントは、これまで選択肢が限られていた悪性軟部肉腫にとって希望の光ともいえる薬剤になります。現在は、適応となるがんの種類が限定的で、使用実績も多くない薬剤ですが、がん治療薬は臨床試験や実績により使用状況や評価も大きく変わっていきます。高い有効性を持つ薬剤として、幅広く使用されることが望まれます。

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紹介:

実家は50年以上続く調剤薬局で、幼少期より働く父と母の背中を見て育つ。高校卒業後は、東京の大学の薬学部に入学する。卒業後は大阪・神戸・松山(愛媛)の調剤薬局で働き、経験を積む。その後、実家を継ぎ現在に至る。