抗がん剤での抜け毛対策と回復するまでの過ごし方

乳がんで他界された小林麻央さんが、生前、ご自身のブログに病室でショートカットのウィッグをつけた写真や帽子をかぶった写真をお載せになっていました。元気な頃の美しいロングヘアー姿を見慣れていた私は、がん治療の過酷さを改めて思い知った気持ちでした。

数ある抗がん剤の副作用の中で、脱毛は命に関わるものではありませんし、体力を消耗するものでもありません。しかし、容姿が変わってしまうというのはご自身だけでなく、周囲の人にも大きなショックを与えるのだと思います。脱毛を回避する術は今のところありませんが、少しでも打てる手があれば心の負担を和らげることができるかもしれません。

今回は抗がん剤での抜け毛・脱毛対策についてご紹介します。

抜け毛・脱毛はなぜ起こる

抗がん剤にはがん細胞を攻撃して死滅させる作用があります。しかし、がん細胞だけでなく正常な細胞も攻撃するため様々な副作用を引き起こしてしまいます。

さらに、抗がん剤は細胞分裂がさかんな箇所により多くのダメージを与えます。私たちの毛根にある毛母細胞は分裂がとても速く抗がん剤の攻撃にさらされやすい細胞です。そのため、抗がん剤による髪の毛やまつ毛、まゆ毛、体毛の脱毛は多くの方に起こりやすい副作用の一つです。

いつから毛が抜けはじめるのか

脱毛は直接命に関わる副作用ではありませんが、見た目が大きく変わるため女性にとっては特に大きな負担となります。脱毛について正しい知識を持つことで恐怖心を和らげましょう。

脱毛の発現する時期はある程度わかっている

毛の成長を支える毛母細胞が抗がん剤の影響を受けて脱毛が始まるのは、抗がん剤の投与から2~3週間後です。

一度脱毛が始まると、一気に抜け落ちてしまうことが多いようです。

しかし、治療が終わると毛母細胞も回復し、徐々に自身の毛が生え始め元に戻ります。治療終了後、早い人では1か月、平均して3~4か月で新しい髪が生え始めますが、毛が伸びる速度は1か月に約1㎝程度と言われていますので、抗がん剤終了後に髪の毛の長さが元に戻るまで最低でも半年ぐらいはかかるとみておくと良いでしょう。

脱毛対策

今のところ脱毛を予防する有効な手段は残念ながらありません。ですので、脱毛が始まってからはもちろん、あらかじめ脱毛に備え準備をすることで、見た目の変化によるショックを抑えることが大切です。

主に乳がんの治療に使われるドキソルビシン・エピルビシン・パクリタキセル・ドセタキセルは脱毛率が高く、頭髪の8割以上が脱毛した患者さんは9割以上、まゆ毛やまつ毛はおよそ6割の患者さんに脱毛症状が発現したとされています。なお、脱毛の程度には個人差があり薄くなる程度の人もいます。

実際に頭髪の脱毛をカバーするアイテムとしては、ウィッグ(かつら)、帽子、バンダナ、つけ毛など。まゆ毛とまつ毛にはアイブローやつけまつげ、アイライナーなどのコスメ用品とメガネ、サングラスなどがあります。

髪の抜け毛対策

髪の毛の場合、長い髪が一気に抜けてしまうと心理的ショックも大きいので、短くカットしておくと良いでしょう。外見の変化も目立ちづらく、抜けた髪の毛の処理も楽になります。

ウィッグは専門の店、通販などで購入することができます。脱毛が始まってからではなく、治療前からそれらの情報を集めたり購入しておくと、時間的、体力的な余裕があるので安心です。オーダー品などは仕上がりに数か月かかることもありますので、その点でも早めに検討すると良いでしょう。

脱毛の程度はまだわかりませんのであまり高価なものではなく、購入しやすいものを試しに1つ買っておく方も多いようです。価格については作り方と毛質などの品質の違いによって数千円から数十万まで幅があります。

ウィッグは主に外出時に使用することが多いものですが、自宅や病室ではウィッグよりもスカーフやバンダナ、薄い素材の帽子などが重宝するので、そちらも揃えておくと良いでしょう。就寝用にナイトキャップもあると寝具に髪の毛がつきにくくなります。

まゆ毛、まつ毛の脱毛ケア

まゆ毛やまつ毛が減ってしまうと顔の印象を大きく変えてしまいます。これらは化粧品でカバーすることができます。

通常の化粧をする時と同様に、まゆ毛はアイブローで描き足すのが便利ですが、まゆ毛がたくさん抜け落ちてしまった場合、まゆ毛をうまく描くのは難しいので、治療前にまゆ毛がある状態で写真を撮っておくと後から自然なまゆ毛を描く参考になります。

もしこれから化粧品を購入される場合は、汗や皮脂に強いウォータープルーフのもので、ウィッグの色に近いものにするとメイクもしやすく、自然な顔立ちになります。

まつ毛は脱毛すると目にゴミが入りやすくなりますので、その点はメガネやサングラスなどでカバーしましょう。つけまつ毛には比較的安価で自然なものがたくさん売っていますので検討すると良いと思いますが、つけまつ毛に使用する接着剤は肌に対して強い場合があるので注意しましょう。
まつ毛の変わりにアイライナーを引くと、まつ毛が抜けてしまった目元の寂しい印象をカバーすることができます。

なお、普段化粧をする女性であれば当然のことですが、化粧をした日は刺激の少ないクレンジングで優しく洗い落としましょう。

ウィッグをしながら仕事をしている方のお話

脱毛による見た目の変化があると、なるべく人目に触れたくないと思います。人付き合いに消極的になり外出も億劫になってしまいます。しかし治療中、治療後の脱毛の期間も仕事を続けている方がたくさんいらっしゃいます。

以前に、乳がんの治療を終え職場復帰を果たしたという方がいらっしゃいました。
抗がん剤による脱毛があったそうで治療後、髪の毛が生え揃うまでウィッグをかぶって出社されているということでした。

治療前は長かった髪をショートのウィッグにしたため、事情を知らない職場の人からは「ずいぶん変わったね」と髪型について話しかけられることもあったそうです。あまり気にしないようにしても、見た目がおかしいと思われていないだろうか、人工の頭皮が見えてはいないだろうか…など、最初のころは人の目が気になることも多かったようです。

その方は約1年ほどウィッグを使われているそうですが、これからウィッグを購入される方は「どれくらいの期間使うことになるのか」と思われるかもしれません。

使用期間は治療期間の見通しから考えると良いでしょう。乳がんの初期治療の場合、治療期間はおよそ4か月ほどなので、それから髪が生え始めウィッグなしで生活できるまで1年から1年半くらいみておきましょう。

また、どれくらいの価格のものを買ったら良いかということですが、使用期間を参考にウィッグの購入額も検討すると良いかと思います。長期間使うから質の良いものを購入しようと思われるかもしれませんし、洗い換えも必要とすると安価のものを複数買った方が良いと思う方もいらっしゃると思います。予算のなかから納得するものを選びましょう。
なお、ウィッグの購入費用は医療費控除の対象にはなりません。

その女性は医療用ではなくおしゃれ用のウィッグを買われたそうで、どちらも高価なものではないそうですが、ご自身の気持ちが明るく前向きになるようにお気に入りのものを揃えたそうです。また、何度かウィッグ専門の美容院でカットしてもらってリフレッシュもされているそうです。

ウィッグを使いながら仕事をするのに面倒なことといえば、ウィッグが蒸れやすく不快なため、制汗シートを持ち歩き、たびたび化粧室で汗をふくなど対策をしないといけないことだそうです。

お話を聞いていると、やはり最初は「どれくらい抜けるのか」という恐怖と「仕事を続けることができないのでは」という不安がとても強かったそうです。

職場では上司以外に乳がんのことは話していないそうですが、髪型に対する同僚との何気ない会話を軽く流して悪くとらえないようにしたりするなど、意識的に心の負担を減らされているようでした。脱毛から回復するまで仕事を控えざるを得ないと諦めかけていたようですが、ご自身の現状に柔軟に対処されて職場復帰を果たされているご様子でした。

抜け毛や脱毛への対策は受け入れることから始まる

人間は体に備わっているものを手術や治療の副作用で失うと喪失感で心が不安定になるそうです。朝起きて鏡をのぞくのが嫌、お風呂に入るのも嫌、外出しても人の目が気になる、そんなお声をよく聞きます。

今回ご紹介した脱毛対策を工夫しながらお仕事を続けていらっしゃる女性は、決して心の強い方ではないかもしれませんが、脱毛という後遺症を受け入れ、気持ちが暗くなることは意識的に頭から排除し、がんになる以前の生活を取り戻されているように感じました。

そのような方もいるのだということをお伝えすることで脱毛に悩んでいる方の支えになることができればと思っています。

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