食道がんになりやすい人の特徴や原因リスクについて

食道がんと聞くとみなさんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。歌手の野口五郎さんが初期の食道がんを治療されたということを公表していました。

昔は胸とお腹を開いての大手術が必要なたいへんな癌というイメージだった食道がんですが、最近では初期の食道がんであれば内視鏡治療で完治が見込めることもあり、様変わりしてきた印象があります。

また、切除以外にも放射線治療と化学療法(抗がん剤での治療)とを組み合わせた治療の成績がだいぶ良くなってきており、治療の選択肢が増えてきているがんと言えます。

最近の動向も交えて食道がんについて解説していきます。

食道がんとは

食道がんとは、口腔で噛み砕かれた食べ物が飲み込み動作で咽頭喉頭を通過してから胃に落ちていくまでの間の管であるとことの臓器、すなわち食道に発生するがんです。

40歳代後半以降に増加してくる傾向があり、男性での発症が女性の5倍以上多いことが特徴といわれています。

近年、食生活の欧米化や肥満などの原因によって日本人における食道がんのタイプの割合が異なってきていることが研究者の間で話題になっています。治療法にも関わる問題なので後述します。

日本人に多い食道がんのタイプ

従来、日本人の食道がんの9割は扁平上皮がんと言われていましたが、これは欧米の腺がんと扁平上皮がんがほぼ半分半分となっているという結果と大幅に乖離していました。この問題は食生活の欧米化や肥満の増大によって日本人の腺がんが増えていることから、食習慣の違いからくるものではないかとされています。

しかし、ヘリコバクターピロリ感染者がかつて日本に多かったため胃酸分泌が弱く、胃食道接合部の炎症が起きにくかったという要因も考えられています。つまり、近年の除菌療法や衛生環境の改善によってヘリコバクターピロリ感染者が激減している本邦においては、逆流性食道炎が増加しており、将来的な食道腺がんの増加につながる可能性が示唆されているということになります。

食道がんの主な原因とリスクファクター

食道がんの3大リスクファクターといえば、昔から「高齢、喫煙、飲酒」といわれていました。最近ではその他のリスクファクターも研究されているので併せてお示ししますが、やはり今でも上記の3大原因が占める割合は高いと言えます。

高齢・加齢を原因とした遺伝子変異

冒頭に記したとおり、食道がんは40歳代後半から徐々に加齢につれて罹患率が高くなってきます。これはさまざまな食道粘膜を傷害するダメージが蓄積されることによって遺伝子変異が起こり発がんするためと考えられています。ではダメージとはどのようなものを指すのでしょうか?次項から説明していきます。

喫煙による食道への影響

特に日本人に多い扁平上皮がんにおいては関連が強いと言われています。タールは古典的な発がん物質で肺がんに深く関連することからもその毒性がわかるかと思いますが、喫煙した煙は気管だけではなく食道にも流れ込んで直接的に悪影響を及ぼすということになります。

アルコールの代謝物であるアセトアルデヒド

体内でアルコールが代謝されて産生されるアセトアルデヒドは発がん性の物質で、食道がんの発生にも大きく影響を及ぼしているといわれています。アセトアルデヒドを分解する酵素の活性が弱い人は食道がん発生のリスクが高いこともわかっています。また、喫煙と飲酒の両方の習慣を持っている人では、より危険性が高くなることも指摘されています。

その他のリスクファクター

昔から言われている通り、熱いものを飲食することは食道がんリスクを上昇させるということがわかっています。また、栄養状態の低下やビタミン不足も食道がんのリスクファクターと判明しています。それ以外にも、ヒトパピローマウイルスの感染の既往や、頭頚部がん・食道がんの既往も食道がん罹患(再発)リスクを高めます。基礎疾患としてアカラシアや食道ウェブなどの比較的稀な疾患を患っている方もハイリスク群とされます。

食道がんになりやすい人の特徴

ではどのような人が食道がんになりやすいのでしょうか。上のリスクファクターからみていけばわかる通り、酒好きな(むしろ依存症気味の)高齢のおじいさんでタバコを吸いながらつまみをちょっとつまむ程度で3度の食事はきちんと摂っていない(ので痩せている)、というのが典型的な患者像であると言えます。しかし、これは従来日本人に多かった扁平上皮がんのリスクファクターからみた考え方で、腺がんの場合には事情は異なってきます。そのあたりも併せてみていきましょう。

喫煙者

食道がんに限らず、肺がん、中咽頭がん、下咽頭がん、喉頭がんなど多種類のがんのリスクファクター保持者となります。ご家族に喫煙者がいる場合の副流煙の害もわかってきており、喫煙の害は20世紀ごろに考えられていたよりもはるかに甚大であることが示されてきています。

お酒を飲んで顔が赤くなる人

アセトアルデヒドの活性が弱い人でかつアルコールを多飲している方の食道がんリスクは、アセトアルデヒド活性が強くアルコールを飲まない人の数百倍というデータが示されています。お酒を飲むとすぐ赤くなる体質の人が飲酒を続けると、食道がんのみならず頭頚部がんのリスクも高くなることも明らかになっています。

また、アルコールを常に飲むようになるとビタミン不足や栄養状態の悪化にもつながることから、食道がんリスクが高まる傾向の悪いサイクルを形成してしまいます。

基礎疾患を持つ人

食道の良性疾患で比較的稀なアカラシアや食道ウェブなどの基礎疾患を持つ人は食道がんリスクが高いといわれていますが、検査を定期的に受けることが多いことから早期発見されやすいともいえます。

これから問題になってくると思われるのはバレット上皮を基礎疾患に持つ人、もしくは逆流性食道炎を基礎疾患に持つ人ではないかといわれています。

逆流性食道炎と食道がんの関連性

近年、ヘリコバクターピロリの除菌によって胃粘膜の酸分泌能が改善(というより正常化)することによって、胃酸が胃食道接合部付近の粘膜を傷害する逆流性食道炎が増加しています。加齢によって同部位の括約筋(下部食道括約筋)は弱くなっていくため、食道に胃酸が逆流しやすくなっていくということも影響しています。頻繁に胃酸で傷害されては治癒して、を繰り返した粘膜はバレット上皮と呼ばれる上皮に置き換わってしまいます。このバレット上皮がくせものなのです。

バレット上皮からの食道腺がんの発生

バレット上皮は食道腺がんの前がん病変と捉えられています。つまり、これからは逆流性食道炎によるバレット上皮経由の食道がんの発がんという、従来の日本の食道がん発がんの大部分とは異なる発がん経路による食道腺がんが増えると考えられているのです。バレット上皮の増加には、食生活の欧米化や肥満の増加などの影響が直接的には影響していると考えられています。これらの是正も今後の課題と思われます。

予防と早期発見のコツ

微細な食道病変(初期の食道がんなど)はこれまで胃がん集団検診のスタンダードだったバリウムによる間接撮影では発見困難です。先ごろ認可された上部消化管内視鏡(いわゆる胃カメラ)による検診を受けることをお勧めします。

もちろん、喫煙やアルコール多飲などの習慣のある方は是正をお勧めします。食道がんは苦しい病気です。可能な限り発がんを回避して健康寿命を延ばしましょう。

参考文献

記事内容の修正に関する報告
  • 消化器内科医
  • 七瀬
  • 専門:消化器内科
紹介:

日本内科学会認定医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、難病指定医。医師免許取得後20年ほどにわたって地域の救急拠点病院や大学病院、国立療養所及びがん治療拠点病院などさまざまなタイプの医療機関で勤務しつつ、健康寿命の延伸の為のプロジェクトに関わるなど、県境なき医師として正しい医療知識の発信を行なう。